あなたが転職を繰り返してきたのは、自分の価値を上げることが目的だったと思います。
しかし、あなたが管理職としての能力を修得していないと、給料や労働環境が大きく変わることは望めません。そうであるならば、あなたは転職よりも自分の能力を上げることに努力をするべきなのです。
ここでは、管理職になって何をするべきか、説明していきます。
仕事を自己完結しているのは楽である
あなたは転職を繰り返すことで、仕事を自己完結する能力に長けています。あなたが転職して一人前と見られるようになるまで、半年もかからない場合もあるでしょう。
この時、あなたは「仕事をする三つの能力」の一つである「業務処理能力」を存分に発揮して成果を出しています。そして、あなたはいくつもの仕事を経験することで、一日の働き方も効率の良いものに改善していきます。
こうして、あなたの「楽するための苦労」は、効率良く仕事で成果を出す仕組みを作り上げるのです。この仕組みによって、あなたは日々同じようなやり方を繰り返す「ルーティンワーク」で楽をできるのです。
ですから、あなたにとって「仕事を自己完結しているのは楽である」という状況といえます。
そうであるのに、あなたはルーティンワークという言葉に良いイメージを持てず、それどころか「転職を決意するキーワード」にすら感じているかもしれません。こうなってしまう理由として、あなたの高性能な環境適応能力と、目的を見失って低下してしまうモチベーションが挙げられます。
あなたにとって、初めて仕事が自己完結できた時の感動は大きかったでしょうし、次第にやれる仕事が増えることも自信になったはずです。しかし、そうした仕事が効率良く回る日々になった途端に、あなたは「毎日同じことの繰り返し」という考えをもつようになります。
この時、あなたの「環境適応能力」によって高まっていたモチベーションは、ルーティンワークという目的を果たして急速に低下していきます。そうすると、あなたの業務処理能力も存分には発揮されず、ルーティンワークであるのに手を抜くことを覚えてしまいます。
そして、あなたは「苦労する楽」を無意識のうちに行うようになり、本来であれば成長のきっかけである、「新しい仕事」や「大きな問題」に直面するのを避けるようになります。つまり、あなたにとって、ルーティンワークは「仕事を効率的に処理できる、楽をする仕組み」であるのに、それ以上に楽をしようとして業務処理能力が下がり、結果的に苦労をしてしまうのです。
職場でベテランと言われるようになった人は、例外なくこの「苦労する楽」という状況を抱えてしまいます。そのようなベテランがマネジメントを意識すれば、さらに成長することは十分可能です。
しかし、「苦労する楽」という状況を抱えるベテランは「中間管理職なんて辛いだけだ」という考えになってしまうのです。
中間管理職と言われる理由
あなたが「自分の仕事を自己完結する」段階から成長するには、マネジメントをする立場を目指すべきです。この場合、あなたは職場でチームを管理することになるので、部下と上司の間である中間管理職のポジションが目標となります。
この「中間管理職」という言葉には、あまり良いイメージが持たれていません。しかし、あなたが労働者としての価値を上げていくには、中間管理職として次の二点を意識する必要があります。。
マネジメントは経営の領域に踏み込む仕事である
仕事をする三つの能力の比率を変えると、労働者としての価値も変わる
あなたが中間管理職になると、まずはチームの業務が完結していることを考えなければなりません。そのため、あなたは部下の仕事を確認しながら、業務の進み具合を調節する必要があります。
また、チームとして成果が出ていなければ、あなたの価値そのものが会社から低く評価されてしまいます。成果とは会社が求める業務と、その業務を達成するための費用となります。
あなたが管理したチームが効率良く仕事を行い、多くの業務を処理して大きな成果を出せば、それは会社にとっての利益となります。この利益が大きければ、あなたの労働者としての価値が上がるのです。
つまり、あなたがマネジメントをする目的は「自分のチームの経営をする」ということになります。
そのため、あなたがマネジメントに集中して、チームの成果を出して行かなければ、中間管理職であるあなたの価値は下がってしまいます。つまり、あなたは「仕事を自己完結する能力」を、部下全員に修得してもらうことから始める必要があります。
そうなると、あなた自身が業務処理能力を発揮するのではなく、部下に対して仕事を指示したり、仕事を指導したりすることを考えなくてはなりません。また、あなたの目的は「チームで成果を出す」ことですから、会社に対して必要なコストを要求する必要もあります。
ここで、あなたは「仕事をする三つの能力」について、しっかりと意識して、発揮する能力の比率を変えなければなりません。
・業務処理能力 = あなたが仕事を自己完結する能力
・対人関係能力 = あなたが人を動かし、人に動かされる能力
・課題概念化能力 = あなたが問題の本質を見極め、対応策を考え出す能力
こうした中間管理職の仕事は「業務処理能力」ではなく「対人関係能力」によって可能となります。そして、チームの成果をより大きくしたり、様々な問題を解決するためには「課題概念化能力」を発揮しなければなりません。
このように、あなたがマネジメントを行う立場になると、仕事をする三つの能力の比率が大きく変わるのです。
プレイングマネージャーの段階が一番危険
あなたが管理者となったら、チームのマネジメントが主な仕事となります。そのためには、仕事をする三つの能力を発揮するやり方を、これまでの業務処理能力を中心としたものから、対人関係能力と課題概念化能力を発揮するものへと変える必要があります。
しかし、マネジメントをする役職には、係長、課長、部長の様に段階が分かれています。そして、管理職になりたての段階では、現場の業務に携わりながらマネジメントを行うことになります。つまり、あなたは「業務処理能力」とマネジメントを同時に行う「プレイングマネージャー」となる必要があるのです。
あなたがマネジメントを修得する際、このプレイングマネージャーという段階がもっとも危険といえます。何故なら、あなたは現場一線から管理職へと、仕事のやり方を急速に変えていく必要があります。それなのに、あなたは新しい仕事のやり方を修得しつつ、現場の仕事にも追われることになるのです。
このようなプレイングマネージャーという状況が、「中間管理職は辛い」という理由の一つでもあります。
業務処理能力の割合を下げない管理者は潰れる
あなたは管理者として、マネジメントに集中するために、業務処理能力の割合を下げる必要があります。しかし、多くの職場において、マネジメントが職域となり始めた役職とは、現場の業務も並行して行わなければなりません。しかも、あなたは役職者として従業員の上に立ち、彼らを指示したり指導しなければならないのです。
そのような仕事のやり方を求められるのですから、あなたは業務処理能力の割合を下げて、対人関係能力や課題概念化能力を発揮する割合を上げる必要があります。
例えば、私の元同僚の場合、介護施設の管理職待遇で転職をしました。彼は介護や福祉の業界で働いていましたが、入居者の身体を介護する業務は未経験でした。その元同僚の下で働く職員は介護業務のベテランばかりで、彼は最初に、介護業務を修得することに専念しなければなりませんでした。
しかし、会社が彼を管理職で採用したのは、前職で施設を満室にした経験を買ってのことでした。そうであるにも関わらず、彼は現場の業務で管理職としての責務を果たそうと考えたのです。確かに、彼が任された施設は運営を開始したばかりだったので、入居者数も少なく、そのため職員の数も少ない状況でした。
そのような人手不足の状況を、彼はサービス残業や施設に泊まりこむことで何とかカバーしていました。もちろん、彼には営業活動をして入居率を上げたり、職員に指示を出して業務効率を上げる余裕などありません。しかも、彼は本社がもってきた入居希望の案件を、人材不足などを理由に断り続けたのです。
こうして管理者である彼は半年ほど、そのような状況で働き続けました。やがて会社から幹部がやってきて、この施設を一気に満室までもっていくと同時に、従業員の配置まで進めてしまいました。会社は彼の管理能力を低く評価しましたが、もう一度チャンスを与えて様子を見るつもりだったのでしょう。
それでも、彼は管理者として施設で働き始めてから、およそ一年後に退職届を提出しました。
この例でも分かるように、業務処理能力の割合を下げられない管理者は、やがて潰れてしまいます。管理者となったあなたは、チームとして業務が処理できるようにマネジメントをしなければなりません。そのチームが機能する環境となるまで、あなたは業務処理能力を発揮する場面もあるでしょう。
そうであっても、あなたは自分に課せられた目標と、現場の状況を見極めて行動する必要があるのです。
セルフマネジメントが身を助ける
このように、あなたが管理能力を求められるポジションになれば、現場の業務を処理しつつ、チームが機能する環境を整備するマネジメント能力を発揮しなければなりません。そのためには、まずあなたが自分の行動を計画的に管理する必要があります。
マネジメントの第一歩は、セルフマネジメントにあるのです。
あなたが管理職を担うようになったら、とにかく「楽をするための苦労」となる行動を選択して下さい。その「楽をするための苦労」を行うために、あなたは計画的に現場の業務を行わなければなりません。そのためには、チームの人手不足がどこで発生しており、どのような状況になれば人手不足が解消するか、ということを把握する必要があります。
また、あなたは部下に働きかけて、マネジメント能力を発揮する割合を増やさなければなりません。このためには、あなたがマネジメントを行うことで、チームにどのような利点があるかを、部下に説明する必要もあります。あなたと部下はチームの一員であり、お互いの利益のために役割を分担する関係なのです。
こうしたチーム内での連携をとるためにも、あなたは自分をマネジメントして行動を変える必要があります。
とにかく課題概念化能力を成長させる
あなたが管理職になったからといって、すぐにマネジメント能力を発揮して活躍できるわけではありません。何故なら、マネジメント能力とは、小さなチームのリーダーから経営者に至るまで、部下を動かす立場になれば成長させるべき能力なのです。それだけ、マネジメント能力は仕事をするうえで圧倒的なスキルとなりますが、その成長には多くの経験をする必要があります。
あなたは仕事をする三つの能力である、「業務処理能力」「対人関係能力」「課題概念化能力」を使って仕事をしています。そして、今のあなたは業務処理能力を発揮する割合が高く、課題概念化能力に至っては意識して使うこともなかったのです。
あなたが管理職になれば、まずは数名程度のチームをマネジメントすることになるでしょう。そのため、あなたは部下とのコミュニケーションによってマネジメントを行う時間を増やし、場合によってはあなたが現場の業務を処理しなければなりません。このように、あなたの仕事をする能力は「対人関係能力」を発揮する割合が増えていきます。この時、チームがあなたに求めているのは労働環境であり、管理者としてのバックアップとなります。
つまり、あなたが部下と対人関係能力をもって連携を行う以上、あなたは部下にその見返りを示す必要があるのです。
この、部下が期待している「見返り」こそ、あなたが会社に対して自分の価値を示せるものでもあるのです。そのため、あなたはチームに対して労働環境を整備して、必要な場合は仕事面でのバックアップをしなければなりません。その結果、あなたのチームはより多くの業務を処理できるようになり、大きな成果を出すことになるのです。
チームが大きな成果を出すためには、あなたが課題概念化能力を発揮して「チームの課題」と「課題の対応策」を示す必要があります。
これは別に難しく考える必要はありません。まず第一段階として、あなたが一人で仕事をしていた時に作り上げた、「効率良く仕事で成果を出す仕組み」をチームに当てはめてしまうのです。そして第二段階は「メンバー配置の最適化」となります。最終段階として「チームの自立運営」があります。これら三つのステップをマネジメントしていくことで、あなたのマネジメント能力は成長していくのです。
チームワークのルーティン化
メンバー配置の最適化
チームの自立運営化
これをマネジメントできるようになった時、あなたはより多くの人を動かせる能力を手にしたことになります。この能力を手に入れるためにも、あなたはチーム内の課題を見極めて、具体的な対応策をメンバーに示せなければなりません。ですから、あなたはまず課題概念化能力を発揮しなければならないのです。
マネジメント能力を修得すると全てが変わる
このように、あなたがマネジメント能力を発揮すると、チームの仕事がルーティンワークとなり、やがてチームが仕事を自己完結できるようになります。
そこであなたは「チームがルーティンワークによって退屈を覚え、モチベーションが下がらないだろうか?」という不安を感じるかもしれません。しかし、このチームを引っ張っているのはあなたであり、そしてあなたは業務処理能力の先にある能力を発揮するようになっています。
あなたのように「一人の従業員が仕事を自己完結する」ことから、「チームとしての運営を完結する」というステップを理解している管理者は、チームに対して常に課題を設定することができます。そして、部下一人ひとりの目標設定や、自分の価値をどのように示していくのか、ということも指導していけるでしょう。
あなたはマネジメント能力を発揮していくうちに、「一人でも多く仕事のパートナーを増やしていきたい」という考えになるはずです。より多くの、そしてより大規模の仕事を行って、大きな成果を出すためには、あなたのチームに集う人材が必要です。また、他のチームと提携したり、社外の人間関係も密にすることも効果的な方法だと気付かされます。
あなたが「仕事を自己完結する」ことを目標としていた頃であれば、人間関係に依存することはほとんどなかったでしょう。そのようなあなたは、いわば「身軽な状態」ですから、転職の決断もしやすかったはずです。しかし、その考えでは自分の価値を高めることに限界があります。
あなたは自分の「時間」と「能力」を「労働」として会社に提供して、会社はあなたが仕事で出した成果を評価します。
あなたがチームをマネジメントして出す成果は、あなたが仕事を自己完結して出した成果よりも、遥かに大きなものとなります。そして、マネジメント能力を修得したあなたは、転職を繰り返してしまう労働者の仕組みを理解し、それを乗り越える方法も見付けています。これはあなたが、多くの同僚を優秀なパートナーとして、仕事に巻き込んでしまえるステージに上がったことを意味するのです。
マネジメント能力を存分に発揮した時、あなたにとって仕事のやり方はもちろんのこと、自分の価値を上げる方法、転職や退職をする理由など、全てが変わってしまうのです。